Vol.9 ろうがん
恥を忍んで告白しよう。
この文章を書いている時点で和多田は40代半ばの年齢だが、すでに数年前から老眼になっている。
最初にその徴候に気づいたきっかけは、「爪切り」だった。
「どうも最近爪が切りづらいなぁ」
少し前から何となく感じていたが、ある時何気なく少し腕を伸ばして距離を取ると、爪の先がはっきり見えたのだ。
つまり、近くに目のピントが合わなくなっているということだ。
しばし黙考…
「えっ、これってもしかして老眼!?」
老眼という二文字は、もっと老齢になってから訪れるものだと思っていたので、それに思い至った時には愕然としたものである。
元々強度の近視で若い頃からコンタクトが離せない人間だったが、近くまで見づらくなるとは…
ピントの調整力が落ちているので、以前よりも間違いなく目が疲れやすくなっている。
問題は、私の仕事がキャリアコンサルタントであり、大量の応募書類を日々読んだり書いたりしないといけないということだ。
特に、細かい字でびっしり書かれた職務経歴書を読むのが一番ツライ。
「おお神よ、よりによってこんな仕事をする人間に対してこんな仕打ちをするなんて」
と嘆いたものである。
ただ、モノは考えようだ。
老眼になったことで、私は求人企業の高齢の経営者と同じ感覚で応募書類に目を通すことができるようになったのだ。
自信を持って、
「こんな読みづらい書類では採用の決定権者はまともに読んでくれませんよ。」
と言えるようになったわけである。
喜ばしいことではないか。
なんでだろう、涙が出てきた。
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