Vol.10 与えることは奪うこと
転職のコンサルティングは、非常にマンパワーを使う仕事である。
バックグラウンドの違う受講者1人1人に対して個別の対応が必要であり、画一的・機械的な処理ができないからだ。
特に、応募書類の作成支援は骨が折れる作業になる。
過去の経歴や経験を詳しくヒアリングし、それを元に最も効果的にアピールできるコンテンツや構成・レイアウトを考え、各書類を何度も見直して仕上げていく。
転職活動の成否のカギを握るものであり、妥協は許されない。
しかし、コンサルタントとして関与するレベルには注意しなければならない。
本音を言えば、ヒアリングした内容を元に、私が応募書類をすべて作り上げる、言わば「代筆」をすることも可能だし、その方が手っ取り早いと思うことも少なくない。
受講者は自分の仕事の領域ではプロであっても、転職のプロではないし、書類作りのような事務作業を心底苦手にしている人もいるからだ。
しかし、キャリアコンサルタントとしてはその誘惑に乗ってしまってはいけない。
その理由の1つは、私がすべてを代筆することで、その書類は「和多田の色」になってしまい、その人の書類ではなくなってしまうからだ。
実は過去に何度も経験したことなのだが、そのように私が代筆に近い形で作りこんだ書類は、書類選考では間違いなく威力を発揮するが、いざ面接となった時に問題が生じる。
事前に書類から思い描いた人物像と目の前の本人のイメージが食い違うために、採用担当者は大きな違和感を感じてしまうのだ。
この違和感は、往々にして不信感に変わり、採用を思い留まらせることになるのである。
もう1つの理由は、私が書類を作り上げてしまうことで、その人が本来持っている優れた要素や情報をスポイルしてしまう危険性があるからである。
私がヒアリングで入念に過去について聞き出したといっても、たかだか数時間のことである。その人の数年、数十年という仕事の経験や身につけたスキルについて本人並に把握できるはずがない。
その限られた見識だけでまとめた書類には、自ずと限界があり、その書類をもってベストなものと考えるのはコンサルタントの驕り以外の何物でもないのだ。
手間がかかっても、時間がかかっても、できるだけ本人に額に汗して考えてもらい、手を動かしてもらう。
そのステップが大切なのだ。
「与えることは奪うこと」
ある知人から教わった言葉であるが、日々これを肝に銘じて仕事に取り組んでいる。
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