Vol.19 トラウマ
私のコンサルティングの受講者に、ある30代の男性がいた。
彼のことを仮にKさんと呼ぶことにしよう。
Kさんは、誰もが知っている有名大学の出身。
そして多くの人が憧れるような業界で忙しく働いていた。
しかし、その忙しさは想像を超えており、10数年に渡る激務で体調を崩し、退職を余儀なくされてしまった。
Kさんは身体を悪くしたが、同時に精神的にもダメージを負っていた。
「もうあんなに忙しい生活はコリゴリだ」
Kさんはそう考え、今までの業界から逃避して未経験の業界に行こうとしたが、うまくいかずに私のコンサルを受けることになった。
私は今までの業界をメインに応募することをアドバイスし、書類や面接のサポートを行った。
その甲斐があり、Kさんは複数の内定をほぼ同時期に獲得することができた。
その中には業績は好調で、Kさんの能力や経験を高く評価し、私から見ても十分な待遇を提示してくれた企業もあった。
「おそらくこの会社に入るんだろうな」
そう思っていたところ、Kさんの選択は私を驚かせた。
なぜなら、Kさんが選んだのは、内定を得た中で最も待遇の低い会社だったからだ。
業績も決して思わしくなく、将来性という意味でもどちらかと言えば見通しは明るくない会社に思えた。
しかし、Kさんがその会社を選んだ理由は明快だった。
その会社は給料が安い代わりに残業がほとんどなく、労働時間が最も短かったのだ。
仕事の中身も、Kさんの能力からすれば物足りないようなものと言えた。
私は正直なところ、Kさんの選択は「キャリアの安売り」であり、非常にもったいないと感じた。
と同時に、過酷な労働条件に対するKさんの「トラウマ」がいかに大きなものだったのかを、その時初めて理解した気がした。
Kさんのトラウマが時間と共に薄れ、この選択を後悔する時が来るのか、私にはわからない。
人はその時その時の自分の選択の結果に基づいて生きていくしかないのだ。
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