AさんとBさんの転職:二人の命運を分けたもの(その1)
似たもの同士の二人
AさんとBさんは共に40代の男性です。
私大を卒業した20数年前、時代はまさにバブルの最盛期。
決して一流とは言えない大学でしたが、就職口はそれこそいくらでもあり、二人とも別々の中堅メーカーに入社して、営業畑を歩き続けてきました。
そこからのサラリーマン生活は常に順風満帆というわけではありませんでしたが、Aさんは持ち前のバイタリティで、Bさんはこまめなフォローを武器に、営業マンとして実績を積み上げてきました。
雲行きが一気に怪しくなったのは、二人が40歳を過ぎた、2008年のリーマン・ショックの時のことでした。
大口の主要取引先からの受注が激減したことで、二人の会社は共に過去最高額の赤字を記録。
様々なコスト削減が行われましたが、それでもとても追いつかず、人員整理が急務となりました。
退職を決意した二人
Aさんは会社が早期退職優遇制度による退職者募集を始めたことを知り、思い切って手を挙げることにしました。
会社への愛着はありましたが、元々給料の安さに不満があり、自分の実力ならもっと高く買ってくれる会社があるだろうと常々考えていたので、退職金が割り増しになるこの機会は、Aさんにとって「渡りに船」に思えたのです。
一方、Bさんも退職を決意していました。
今回の件で自社の財務基盤が予想以上にもろいことを再認識し、たとえ人員整理等で当座をしのげたとしても、定年までは会社が持たないだろうと考えたのです。
実はBさんは数年前に一度だけ転職しており、思ったよりも苦労した経験がありました。
何年か後、もっと自分が年をとってから会社が傾いた時、転職活動は困難を極めるだろうことが容易に推測できたので、転職するなら今だとBさんの気持ちは固まっていました。
Aさんの動き
Aさんは会社を退職し、解放感に包まれていました。20年近い会社勤めで疲れも溜まっていましたし、これを機会に少しのんびりすることにしました。
割り増しの退職金を手にしていましたし、失業保険も半年以上受け取ることができますので、当面の経済的な心配はありません。
営業マンとしての能力への自信もあり、不況とはいっても自分なら満足のいく会社に再就職できるはずだと楽観していました。
早朝の通勤電車で人波に揉まれていた毎日に比べ、のんびり朝寝を楽しめる今の生活は何だか夢のようです。
夜も好きな映画のDVDをお酒を飲みながら深夜まで楽しむことが増えました。
退職から半年が過ぎ、心も体もすっかり丸くなったAさんは、いよいよ転職活動を始めることにしました。といっても、転職活動の経験がまったくないAさんです。
書店に行って応募書類の書き方の本を買い、見よう見まねでなんとか履歴書と職務経歴書を書き上げるのに、1ヶ月以上かかりました。
テレビCMでよく見かける人材紹介会社のサイトにいくつか登録してみましたが、「今は紹介できる案件がない」というメールが届いたっきりで、なんの音沙汰もありません。
そこでサイトで見つけた人材紹介会社に片っ端から連絡を取り、何社か面談をすることができましたが、どこも「40代の方向けの求人はほとんどない」とのこと。
何より、コンサルタントの態度から、自分のキャリアが転職市場で驚くほど低い評価であることに愕然としたのでした。
人材紹介会社に見切りをつけたAさんは、求人サイトで求人を探すことにしました。
確かに若年層向けの求人がほとんどで、自分に合った求人は驚くほどわずかしか見当たりません。これと思ったいくつかの求人に対して応募の操作をしましたが、面接の連絡をくれた会社は皆無でした。
いくつかの求人サイトを回り、それぞれで目についた求人に応募してみたものの、結果は同じ。
次にハローワークで求人を探して紹介を受けたものの、1人の求人にどれも数十人が応募済みとのことで、ろくに面接に進むことができません。
そうしてまったくと言っていいほど成果がでないまま退職から1年が過ぎ、自信満々だったAさんの顔は焦りで覆われていました。
→(その2)に続く
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