転職とキャリアチェンジの関係
転職の2つの意味
転職という言葉は、2つの異なる意味で使われるちょっと不思議な言葉です。
「コトバンク」によると、
「転職とは、現在の職業もしくは所属する会社から、別の職業もしくは別の会社へと変わる、移ることをいいます。」
とあります。
つまり、「職業を変える」、たとえばバスの運転手から営業マンにに変わるようなケースを指すこともあれば、「職場を変える」、すなわち(仕事の種類は変わらず)A社からB社に移るという意味で使われることもあるのです。
「職業を変える」時には会社も変わることが通常なので、ことさらに両者を区別する必要はないということでしょうか。
私が行う転職支援でも、その両方の意味での転職を手伝っています。
「今とは別の仕事に就きたい」という前者の転職と、「今の会社を辞めて別の会社に移りたい」という後者の転職です。
しかし、転職という同じ言葉でくくられるとはいえ、その中身も難易度もまったく別物です。
用語として適切かどうかわかりませんが、私は両者の区別のために前者の場合を特に「キャリアチェンジ」と言っています。
転職とキャリアチェンジの違い
仕事の種類を変えなくても、会社を変わるというだけで、それは一大事であり、生半可なことではありません。
転職活動においては、わずか数枚の書類と数回の面接だけの情報で、少なくとも年間数百万の人件費のかかる人材として採用してもらわなければなりません。
そして採用されて入社した後は、今まで築いてきた人脈や社内評価などの「財産」をリセットして、イチからそれらを獲得していかなければならないのです。
そこで消費される財産やエネルギーは膨大なものです。
だからこそ私は、在職の方とは「本当に転職が必要かどうか」を必ず議論します。
転職が必ずしも幸福をもたらすとは限らないことも知っているからです。
中には、社内異動によって問題が解決できるケースもあります。
「仕事そのものを変える」転職、すなわちキャリアチェンジの場合は、その大変さは比較になりません。
その場合、職業人としての命である、今まで培った業務上の経験やスキルの大半を放棄することになるのです。
別の領域に目が向いてしまうと、過去の経験やスキルの価値をどうしても軽視しがちになります。
でも、それを獲得するために要した時間やエネルギーを客観的に振り返れば、容易に捨てられるようなものではないはずです。
これは、数々のキャリアチェンジを行なってきた私が自戒の気持ちを込めて言っていることです。
それだけでなく、そもそも経験がほとんどあるいは全くない領域で、企業から採用されるかどうかが大きな問題です。
どんな求人案件でも、応募者の大半はその仕事の経験者であり、求められる経験やスキルを持っているライバルはたくさんいます。
採用側が経験者を好むのは、過去の業務経験が、前職と同様に働け、貢献してくれるであろう「再現可能性」の証拠となると考えるからです。
そうした経験者たちを抑えて、経験・スキルの乏しい人をあえて採用したいと企業に思わせるには、そのマイナスを補って余りある相当なプラスアルファが必要となるでしょう。
書類選考を通過するだけでも困難なことは、想像に難くないはずです。
そして、幸運にも採用されたとしても、待遇は経験に応じた水準となり、前職までのものは望むべくもないことも理解できるでしょう。
転職は何かを得るだけではなく、多くのものを失う覚悟が必要です。
まして、キャリアチェンジを目指すなら、並大抵の覚悟では足りないことを理解しておく必要があります。